報道だからとプライバシーを侵害して対象を傷つける権利はあるのか、どこまで認められうるのか、今と昔は同じか違うのか

| コメント(0)


先日の【新たな報道名言「匿名発表だと、被害者の人となりや人生を関係者に取材して事件の重さを伝えようという記者の試みが難しくなります」が誕生しました】でも言及した、報道業界における被害者・加害者のプライバシー侵害、実名報道の問題。過去の同様な主張も合わせ、色々と近しい期間でも類似の話が出てきたので、後ほど同じような事案が発生した時のための、覚え書きとして。

端的な一側面としてはまさにこんな感じで。実名報道とか被害者のひととなりが必要でなかったじゃないか、これまでのあれこれはいったいなんだったんだ、的な。


複数の方々の言及やちょっと前の事案に対する姿勢宣言などが持ち上げられているけれど、結局のところ、今回の事案で匿名の尊重とそれの実施、「人となり」の非報道扱いによって「判断は報道が好き勝手にやっている」「ダブルスタンダード」「社会正義など大義名分では」という実態が暴露されてしまった。これって先日のスマップ問題と同じようなケースなんだよね。普段崇高な意思実現のため、社会に貢献しているからとお題目を挙げておきながら、結局はそれをツールとして使っており、実態は好き勝手で判断している、自我のために行っているに過ぎないことがばれてしまった。

加えて、インターネットの普及浸透で、「実名」などのプライバシーに相当する情報がもたらす影響力が過去と比べて大きくなったため、「報道界隈が主張する必要性」の相対的優位性が無くなったってのもある。しかし、報道界隈の多分はそれに気が付いていない。あるいは気が付いていても、それを認めると自らの優位性を破棄しなければならないので気が付かないふりをする。だからこそ意固地に「私達記者は正義、がんばる」になってしまう。

報道界隈が振り回していた「社会正義」の名の下の実名報道という暴虐的行為の正当性が、今件事案でまったく無意味のものであることが明確化されてしまったわけだ。

念のため。今件事案に関して実名報道をせよとの主旨では無い。むしろ逆で、今件は匿名報道でよく、今後も類似事案に関しては、押し並べて匿名報道でなければならぬという意味。そしてこれまでの実名報道に関する総括も求められる。


そして例の発言に限っても(昨今の報道界隈の姿勢が凝縮された形ではあるけれどね)、よくよく考えてみると、「記者の試みが困難になる」ので「匿名はイヤだ」ということで、「記者の試み」そのものの正当性は立証されてないのだよね。「事件の重さを伝えよう」。これは確からしさの点では考慮の余地があるけれど、それとて多分に報道サイドのエゴでもある。まずは事実を正しく伝える事。それを吹っ飛ばして俺達の考えた「重み」を知れってのは、料理店に入ったら今日のおすすめを強引に薦めてくる店主と変わりは無い。

そしてその方法論として「被害者の人となりや人生を関係者に取材して」のみに限定し、それが困難になるから匿名はイヤだとする。「自分達が見つけた容易なテンプレが使えなくなるのでイヤ」を意味することになる。その容易な手法による弊害が大きくなっている現在においても。

それほどまでに自意識的な使命感で「実名報道をしないといけないのです」と思うのならば、まずは報道界隈自身における実名報道をなされてはいかがだろう。恐らくは望んでいないであろう、多様なプライベート情報の開示も合わせ。隗より始めよ、だね。要は「実名報道の必要性、正当性」は報道従事者の表現能力不足を実名表記やプライバシーの露出で補おうとする事、そして多分な被害が生じる事に対する正当性、免罪符でしかない。

孫子の「兵は拙速を尊ぶ」にもある通り、他の媒体でその速さを超えるものが無かった時代は、新聞の傍若無人ぶりや正確性の欠如、チェック体制の問題も、「速いから仕方ないよね」で勘弁してもらっていた感がある。しかし今はネットがあり、その速さ故の「勘弁してあげる」理由が無くなった。にも関わらず、特権にしがみつく報道界隈が、詭弁を繰り返している、その象徴の一つが「実名報道と『人となり』」ではないのかな。


そして。この類の話になると必ず「全部が全部では無い」との意見がある。それは否定しない。けれど同時に、今回挙げたような数々の主張が報道界隈から続々と輩出され、しかもそれが報道組織全体の意見のような形で呈され、あるいはかなり上層部にいる方の見解として呈される。そしてそれを否定するような意見はほぼ無い。となれば、相当な部分にまで劣化が進んでいる、あるいは元から劣化していた、全体的には問題視される状態として認識してもかまわない状況なのではないかな。

関連記事             

コメントする

            
Powered by Movable Type 4.27-ja
Garbagenews.com

この記事について

このページは、不破雷蔵が2016年7月29日 07:50に書いた記事です。

ひとつ前の記事は「男性の喫煙率がはじめて3割を切った件」です。

次の記事は「今年もようやく全国で梅雨明け、東北南北部で梅雨が明けました」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

* * * * * * * * * * * * * *


2021年6月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30