「生きがいのために仕事をやるよ」が業界全体の賃金バランスを崩しかねない状態になっている件について

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ネット広告によく使われる言い回し「こづかいかせぎ」「おこずかいをゲット」的な話の延長線上にある、ちょっとした、でもよく考えると多方面に影響が生じそうな問題。元記事では主婦の起業的なお話に留めてあるけれど、定年退職後のシニア層における低賃金での就業もまた、これとほぼ同列の問題に違いない。「生き甲斐」と「少々の手間賃、小銭稼ぎ」という視点では非常に似通っている。

要は「生き甲斐」という要素が多分に加わり、さらに通常の市場相場も知らずに、そして受注を第一に考えるためにダンピングが相次ぎ、結局のところ市場全体の相場が引き下げられてしまい、これまで仕事をしていたプロの人、専業の人への対価相場まで下がってしまいかねないというもの。プロへの支払いはそのままキープできたとしても、今後新たに足を踏み入れようとするプロ志望の人は、その市場における相場に絶望してしまいかねない。


例えば先日の当方の本家記事の【「今年は北海道も含めて数値目標なし、無理のない節電協力要請」...2014年冬の節電要請内容正式発表】。これが本文だけで文字量は大体5000文字。単に打ち込みだけだとしても結構な量。この量の2倍で3000円。もちろんデータを流し込むだけじゃなく、見直しチェックもする必要がある。ちょっとやってられない感。

もちろんこんな意見もある。


それはそれで一理はある。ただし以前から何度も挙げているけど、対価ってのはその制作物に対する評価でもあり、対価相応の質しか出てこないのは言うまでもない。そしてアルバイトなりでは、何かトラブルが生じた時に、対応しきれるだけの責任力や力量を期待できない。つまりは保険に入っていないようなものでもある。つまりは焼き畑農業的なもので、雇い手側の「こんなもんでいいや、使い物にならなくなったら打ち捨てて、新しい低コストのモノを云々」という思惑が見えてくる。そこには中長期的な視点は無い。

......で。これって以前に触れた、【「より労働環境のいい職種を選ぶ傾向が顕著に表れる」当たり前じゃん】とまったく同じ構造なんだよね。


早くも同様の発想から、指摘をしている人も多い。

結局仕事ってのはどんなものでも一様に難しい、簡単なものってばかりではなく、色々なラインを複数まかされることになる。それが経歴、業績、技術の蓄積と共に、重いものを任される率が高くなる。例えば重鎮の人なら「重重重」、新人さんなら「重軽軽」という感じ。これがセットになって対価をいただける。新人も「軽軽」をこなしていくうちに技術を習得し経験を積み、「重」をより多く担えるようになる。

ところが今件の場合は、新人宛の仕事のうち「軽軽」の部分をお気軽なダンピング対象の人に割り振ってしまい、コストを安く抑えるようにとの思惑。新人さんを切れるから。「重」の部分が一つ余るけど、それは重鎮の人にやってもらい「重重重重」となる次第。

昨今の「お手軽お小遣い稼ぎ」「生きがい探しのお仕事」の類が増えるに連れて、既存の就業者の負担が増えるってのは、こういう構造になっているのも一因。そして当然、後続が育たない(何しろ新人さんを切っているのだから)ので、重鎮が居なくなれば業界は慌てふためくことになる。粗製乱造、すぐに切って捨てて成長などしていない、アルバイトレベルの技術者しか残っていないのだから。まさに今の人手不足の構造そのもの。

無論すべてがすべてってわけじゃない。けど、お金は大事。自分自身のためにはもちろんだけど、自分達の居る世界(業界)を維持するためにも重要。ある意味、スキルを持ち、あるいは継続して事業を成そうとしている人への対価は、その業界全体への投資でもあるんだよね。切って捨てることが前提のための捨て銭ではなく。

そのあたりを考慮しないと、上記のような事例や、近しいところではドッター周りの話のようなことになってしまうんじゃないかな。

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このページは、不破雷蔵が2014年11月 6日 08:10に書いた記事です。

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