軽減税率を適用しないと命運が断たれるのは新聞ではなく新聞社に過ぎない。しかも恐らくはごく一部だけ

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「新聞に軽減税率を適用しろ特別扱いしろ保護しろ」的な話は随分と前から、それこそ税率が8%に引き上げられた前後から新聞業界側が騒いでいた話で、今回になって突然「政府側の買収工作だ」などという陰謀論が出てくるのは、時系列がどこかにぶっ飛んだ感があるのだけど、それはさておくとして。

今件で詭弁的な雰囲気があるのは、この「新聞」と「現在の新聞業界」とがごちゃごちゃになっていること。しかも「宅配」で絞り込むと「ならば宅配されていない新聞は守るべき対象として評価されていなかったのか」となる。要は軽減税率の適用の是非が、評価対象のYes/Noの判断基準として認識されてしまうこと。プロの作家における印税率とかと同じね。「A先生はヒットセラー出しまくってうちに貢献してくれるから10%」「B先生は新参だから5%」的な話になると「俺は随分とあなたのところで連載やってるけど、いまだに5%なのはどういうことだ」という話になる。

軽減税率で「新聞を助けてくれ」的な話ってのは結局、実態は「新聞社を助けてくれ」のが実情。

紙媒体としての新聞の需要縮小で、情報、ニュースの提供創出元が無くなるのは良くないとの説明もあるれど、需給の関係で市場が縮小するにしても一度に無くなるわけでは無く、市場原理に従って調整がなされるだけ。そしてそれは新聞に限らずすべての市場で起きることである。さらに紙媒体の新聞の需要・市場が縮まった際に、情報の提供元となる新聞社、そして記者が、その立場を勘案し、どのような行動を取ったか、取るべきか。米国が良いお手本になる。欧州もそうかな。新聞社は大規模なリストラを実施。あるいは社をたたんだところも。雑誌もそうだよね。

情報発信を、ジャーナリストとしての責務を抱く人は、フリーのジャーナリストとなり、ネットを使って自前で情報発信をしている。これは自己メディアの創生ともいえる。無論少なからぬ人は職を変えたでしょうけれど。一方、執筆業の立場から情報発信をする人もいる。

「海外の新聞が保護されているから自分らも適応されるのは当たり前」と主張する割には、その海外で新聞なるメディアがどのような変化をしているのかには、あえて触れていない。この姿勢は、それこそ報道機関としての能力を疑われても仕方がない。

実際適用されなければ経営はより厳しくなるかもしれない。でも元々厳しい状況は継続していて、今後さらに厳しさが増す事は既定路線。どの道、1社や2社は業務転換や廃業を迫られるかもしれない。でも銀行ですらそのような動きは過去において何度となく行われてきた。新聞社だけ永続的に保護されるべきってのは実におかしな話。

そもそも今回、非常に大胆であからさまな形で「新聞こそ助けられるべき存在である」と喧伝したのは、その新聞業界が繰り返しこれまで紙面で企業や業界に対して批判をしてきた、閉鎖的な、既得権益の悪用ともいえる、集団護衛体制そのものではないのかな、という気がする。集団護衛体制そのものの是非は別として(ケースバイケースだから)、あれだけ叩いた手法を、自らの場合には大胆不敵にも用いるとは。勉強になる、としか言いようがない。


新聞に対して文化だから、情報源だからという大義名分で特例を認めてしまったことで(新聞は食べられないものね)、当然同じように以前から適応云々を主張してきた出版サイドもこのような対応をすることになる。一方で新聞界隈内部ではことの重大性を認識していない雰囲気が感じられる。

そして仮に、本当に新聞のみ適用となれば、新聞は他の媒体から様々なやっかみを受けかねない。憶測の対象となる。本来は自分達側から強固な主張をし、半ば脅し的な形で認めさせたにも関わらず、「体制の犬になった」的な批評からは逃られられない。自らは「文化認定」の勲章を手に入れたつもりでも、実は非常に大きな十字架を背負ったことになるのだよね。

食品以外で唯一の適用対象となる新聞。本当に「食えない奴」的なシャレも、シャレにすらならない気がする。まぁ、消費税率引き上げが停止され、軽減税率周りが白紙に戻されても、一連の挙動は永遠に語り伝えられ、日本の新聞業界の1ページに刻まれることは間違いない。

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このページは、不破雷蔵が2015年12月18日 08:02に書いた記事です。

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