【更新】「電力自由化のリスク」

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【視点・論点 「電力自由化のリスク」】

↑ アメリカの電気料金の推移
↑ アメリカの電気料金の推移


これまで電気は、それぞれの地域で大きな電力会社によって供給されてきました。家庭は電力会社を選ぶことができません。企業は電力会社を選ぶことはできますが、新しい電力会社は規模が小さいうえに数が少なく、実質的に選べる状況にはなかったと言われています。電力の自由化とは、こうした状況を改革して、様々な電力会社を競争させて、消費者が料金メニューや供給先を選べるようにしていこうという政策です。

もちろん、こうしたメリットばかりが実現するならば、政策の方向性に大きな問題はありません。しかし、電力の自由化に伴って、様々なリスクやデメリットも生まれます。そうしたリスクやデメリットを正しく認識しておく必要があります。

第一に、いまの状況で電力の自由化を急げば、必ず料金は高騰します。

もちろん節電を進めることは重要です。自由化を支持する論者は、電気料金を上げれば需要が減るはずだと考えています。しかし、電気は生活必需品です。収入の少ない家庭では、普段からぎりぎりまで節電を進めていることでしょう。電気料金が上がったからといって、さらに切り込むことは大変難しいことです。

実は、こうしたことが政治問題となって、アメリカでは電力の自由化は止まってしまいました。家庭向けの電気料金は、やはり行政的な規制のもとにおいて、きちんと監視しておくことが必要だという判断からです。その結果、自由化を進めた州の電気料金は、自由化をやめた州に比べて、高いままの状態が続いています。

第二のリスクは、停電の可能性が増すことです。

最後に、発送電分離の問題に触れておきたいと思います。発送電分離は、こうした自由化政策を補強する一つの方法論です。送電線を公共のものとして、どの発電事業者にも公平・平等に使わせるという方策です。しかし、一部には発電部門もバラバラにして行くことが発送電分離だと考えている人もいます。送電線への公平なアクセスを求めるだけでなく、発電部門も小さく分割すれば、深刻な副作用は避けられません。

発送電分離を積極的に進めた国は、どこもエネルギー自給率が非常に高い国ばかりです。発電部門がバラバラになってしまうと、日本のように化石燃料を全量輸入に頼っている国では、燃料調達の交渉力が致命的に失われます。小さな会社ごとに、相手国政府や国有企業に調達交渉に行っても、有利な条件を勝ち取ることは不可能です。

また、発電会社、送電会社とも組織的に分離されるとなると、組織の壁が高くなり、現場でのコミュニケーションが欠如することは間違いありません。韓国では、発送電分離後の各社間での意思疎通がうまくいかなかったために、去年の夏に大停電を起こしてしまいました。


何度となく言われていることで、計算の上でも過去のデータ、経験則からも山ほど裏付けはあるのだけれども、いまだに陰謀だの新しい技術でなんとかなる「はず」だのと言われる方がおられる、電力自由化のリスク。自由化そのものには「あの国もやっている」「こういう事例もある」と主張するのに、問題点は見なかったことにするってのは、どういうことなのかね......

......はともかくとして。かなりシンプルに、そして分かりやすく現状を把握できる、電力の自由化に関するリスクのお話。【「市場経済制、市場経済制、市場経済制」と三度同じ言葉を唱えさえすれば】の話ではないけど、「電力自由化、電力自由化、電力自由化と三度同じ言葉を唱えさえすれば」なんでも解決されると思っているフシがあるのよね。そういう人たちは多分にして、このような問題点や、電力そのものを支えている人たちのことを見ていない。そりゃ、いいところだけを覚えていれば、盲信したくなるわけだ。

そういやこの話をツイートした時に、「NHKだから信じられない」という、自由化万歳の方がいた。今のNHKの体たらくを見る限り、その気持ちも理解できなくはない。でもねぇ、【さかのぼる高度半減・6分の時間稼ぎ・高さは4割減...釜石港の津波防波堤の効力試算発表】の話を挙げた時に「御用くさいから嘘だ」と鼻で笑って、後程別の機関がほぼ同じ値を出した時に、その「笑い」をなかったことにした人がいたんだよねえ。それを思い出しちゃったなあ。

NHKも昔と比べれば随分と酷くはなったけど、個別ベースでは検証・参照に値するものも無くは無い。まだ、「むしろ事実を探す方が難しい」という、元ジャーナリストの現ゴルファーあたりと比べれば、随分とマシではあるわな。

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この記事について

このページは、不破雷蔵が2012年8月12日 08:31に書いた記事です。

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